本当に仁王は結婚して子どもまでつくったのだろうか?
たしか前に、女とはシたことが無いとそう言っていたはずだ。
変なところが欠落したあの男は、どうでもいい冗談は言うくせに
そういったことでは嘘はつかない。
「信じられないのも無理ないでしょう。私達は書類上籍を入れただけですから」
「というと?」
「この子を治(はる)を私達が得る為に必要だったんです」
何か自分の手には到底負えないような話の始まる気配がしたが、
好奇心には逆らえず真田は無言で話の続きを待った。
「私には女性のパートナーがいてその人とはどうあがいても子どもが持てません。
だから、雅ちゃんに協力してもらって私達の子どもをつくったんです」
そう言って、目の前の女は言葉を区切ると、決意するように口を開いた。
「治は人工授精で出来た子です」
真田は予想だにしなかったその告白に驚きつつもあぁと心のどこかで納得する。
子供がいることは前から知っていた。
しかし仁王の認識は「自分の子ども」というそれ以上でもそれ以下でもない状態で、
子供について聞いてみたところでその子の性別すらあやふやときている。
そんな仁王に対して自分の子どもだというのにあまりにも
興味がなさ過ぎだと常々思っていたからだ。
この人達のためか、とぼんやりとしかし確信を持ってそう思う。
「雅ちゃんには感謝しています。本来なら子どもの持てなかった私達に
治という宝を与えてくれた、愛したいという気持ちを人から貰う
素晴らしさを教えてくれたのですから。
だからこの子には治と名づけました。大切な名前です」
仁王雅治という名希望だと思っている人間がいる。
仁王の名を持つ子どもを、愛し育てている女達がいる。
そんな事実にふいに真田は胸を打たれた。
今胸をついた暖かいものは俺が過去に置き忘れた何かではないだろうか。
仁王という人間について、この人に聞かなければならない事がたくさんあるような気がするが、
真田は、今現在引っかかる事だけを聞くことにした。
「仁王はゲイなんですか?」
自分でもマヌケな質問だと思うが、
今思い浮かぶ明確なものがそれなのだからしょうがないだろうと
真田は心の中で誰に対してというわけでもなく言い訳をする。
たぶん、初対面の人間にこんな馬鹿なことを聞いてみる程度には
仁王に興味を持っているのだろうと
真田は自分の思考回路に理由付けをした。
「違います」
少し逡巡した後、女はそうはっきり言い切った。
そんな答えを聞いた真田のいぶかしげな表情を
クスリと笑い女は言葉を続ける。
「男も女も関係なくセックスがしたくない人なんだと思います。
疲れることが嫌いな人ですから」