「うーっす、振られん坊の柳蓮二くん。何してんの?」
「お前こそこんな時間に何をしている?」
「や、帰りにご飯でも誘って帰ろうかと思ったら居ないからさ」
と、彼女は何ひとつ気にした様子もなく笑っている。
これが彼女やりの優しさなんて、
イヤになるほど良く知ってるけど。
「相変わらずだな、そんなに食べてばかりだと、また太るぞ」
「大丈夫、そのときは参謀殿にダイエットメニュー作ってもらうから」
「甘えるな。太る前に節制しろ」
いつものやり取り。
どこかきごちないのは、俺が無理をしているからか
彼女が気を使っているからか。
多分両方だろうけど。
「あーのさ‥」
このいつもと同じ様で、全く違う雰囲気に耐えかねたのか
目の前で笑っていたはずの彼女が
少し渋い顔をして口ごもる。
そんな顔しなくていいのに。
結果は分かっていて、それでもぶつかっていったのは俺なんだから。
「知ってるだろうが‥‥好きで、ずっと憧れていた」
「ん、知ってる」
「やはり、仁王が良いんだそうだ」
「それも、知ってる」
声のトーンと共に顔を下げる。
俺のことでそんな痛そうな顔しなくていいのに、と思う。
そんな、痛みを我慢させているのは俺なのだけど。
「ホント、見る目無いよね」
彼女が無理にでもテンションを上げようとして、
こちらが切なくなる程の明るい声を唐突にあげた。
きっと俺のほうが、辛いんだから自分が凹んでどうするとか
愚にも付かないことを考えたに違いない。
そのくらいのことが簡単に予想出来るくらいには
彼女のことをよく知っている。
そんなおせっかいが少しうっとうしくて、
それでもとても嬉しいのは自分でも予想外だったが。
「そうか?」
「あんな狐顔よりずーっと柳のが男前なのに」
「この間、仁王くんカッコいいと騒いでいたのは誰だ?」
「そんな、昔の事は忘れた。
乙女は常に前を向いて生きていく事を
定められてるからねっ!!」
「なんだそれは」
「んん?乙女たるものの心構えの話ですよ。
ひとーつ、乙女たるものいつもしとやかにふるまうことー!!」
「すでに、駄目だろう」
「何か言ったなぁ?柳くん」
「気のせいじゃないか?」
「目ぇ見て言え、コラ」
笑って笑って、不意に訪れる静寂。
「好きだった。今でも好きだ。叶うなら俺に心を向けて欲しい。
そんなことを願うほどには、恋焦がれる相手に 振られてしまって、
本当なら心底悲しいはずなのに、どこかすっきりしているのは何故だろうな?」
「一番見せたかった相手に、ずーっと溜めてた見せたいもの見せたからじゃないの?」
「どん底に凹むかと思ったのに、思っていたよりは平気だ」
「柳、一生懸命頑張ったからね。後悔がないのはいいことだ」
「でも、ずっと好きだった相手に振られたんだぞ?」
「でも、さ。アイツ仁王の横で笑ってたから」
「だから?」
「それでさ、アンタが幸せだからじゃない」
「自分が不幸のどん底に居るときに、
人の幸せを祝福できるほど出来た人間だったつもりはないが」
「アンタは気付いてないだけでそういう人間だったのよ。
気付くのが遅すぎるわ」
「そうだったか?」
「そうなのよ。その気持ちを忘れずに私の幸せも祈るように」
「何だそれは」
「それが一番重要じゃない」
友達なら、全力で祈りやがれと言いながら
胸を張って、つんと上を向く。
そんな彼女の様子がおかしくて笑いがこみ上げてきた。
あぁ、1人じゃなくてよかった。
さっきまで失意が体中に溢れていたのが少しだけ軽くなる。
明日も明後日もきっと心は痛いけど
とり合えず、明日も明後日も笑って挨拶は出来そうだ。
「そういうわけで、ご飯いくわよ。アンタのおごりで」
「俺は今非常に傷心なんだが?」
「笑いながらそんな軽口叩けるなら大丈夫よ。マックで勘弁したげるから」
「おごって貰う分際で偉そうな」
「それが、私の生きる道ってやつでしょう」
一昔前にはやったメロディを口ずさみながら、
こちらの様子を窺う。
そんな不器用な友人と共に
俺は教室を後にした。
悔しいからありがとうなんて絶対に言わないけど、
君が落ち込んだり、決断に迷う事があれば、
そのときは思い切り背中を押して鼓舞する事を此処に誓おう。